湯上り総会

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「文化資本」は「文化水準」と言い換えられるかもしれません。これらが高まっている状況とはどんな状況なのでしょう?

田村「いろどる」研究会はニューノーマルの精神性を象徴している気がするんです。「一緒に考える人」であるサワムラさんが実践していた「土地の持っているパワーをどう自分たちで美しくアレンジし直すか」という営みは、すごく佐賀っぽいなと思ったんですよね。特別なものを使わなくても生活を豊かにできるというのは、ある意味文化的な知恵だといえる。それが高じて、この土地に住んでいる理由や、この土地を積極的に愛する理由が出てくるとすれば、それこそ文化水準が高まっている状態といえるんじゃないかと。

先崎要はその場所にあるもの、「土地の力」を的確に使いこなすってことかもしれませんね。わざわざ外国でつくったものを化石燃料使って持ってきて食べずに、ここにあるものを食べた方がいいんじゃない?みたいな。

白水土地の力を「自然」に求めるのはひとつの視点としてある一方、生活している地域に食品工場があるなら、そこでつくられているものを知った上でそれをつかうといったトレーサビリティーを意識することや、そういう意識に誇りを持つことも、文化水準の高さかなと思います。

先崎 「たべる」研究会で関わった唐津焼でいうと、今あるものを今ある食材に合わせることが無理なくできること、ですかね。つかい手側には楽しめる余地を見つけてほしいし、そこに人それぞれの編集力が発揮されてほしいと思う。各研究会の展示ではそういうところをしっかり見せていきたいですね。

田村最初に言っていた「つくり手とつかい手の共進化」の話にも近いんですが、「これってこういう風にしたらおもしろくない?」といったつかい手側からの提案が、伝統的なものづくりに対してはあまりなかったことに対するある種の反省といってもいいかもしれません。本来はそういった意見のやりとりによって両者が共進化していくことで文化が高まっていくんだけど、それが一方通行できてしまっているな、と。それが、白水さんの言っている「ものがいいだけじゃここから先にはいけない」っていう話と通底するんじゃないかと思います。
そういう意味で、コンビニで買ってきた寿司を唐津焼にのせたらめちゃくちゃおいしそうになったとか、その辺で採った雑草を伝統的なかんびんに生けたらすごくよくて、それを見ていた肥前びーどろの副島さんが驚いたとかっていう話に僕はすごく可能性を感じる。つくり手側だけだと想像もつかなかったことが、つかい手によって提案され、それがつくり手に気づきを与えるという。

白水それは感じますね。羊羹屋さんで「羊羹グラノーラの写真使わせてください」って言われたし、唐津焼の作家さんも「こういうコーディネートを見せていかないとこれからは難しいですよね」って言っていた。そういったひとつひとつの試みが具現化されたとき、ようや両者の意識共有ができると思います。

今回の「ニューノーマル展」が本当のスタートとのことですが、今後の方向性で考えてらっしゃるアイデアについて教えてください。

白水まずは展示をきっかけに、つくり手とつかい手の交わる機会がどんどん増えてほしい。そこから先はツーリズム的な領域が重要だと思っています。ものづくりの現場を実際に見たり体験したり使ったりできる機会と場所、そんな場所を周遊できる環境や宿をつくってみたい。今回、唐津焼の給食の提案をしたんですけど、それが常時食べれる環境をつくれたら嬉しいですね。

先崎「場」を今後どうつくっていくかが大事ですよね。メディアだけの提案だと、どうしても一方通行になってしまうので、まずは疑似体験できる環境を暮らしの周縁につくり、実際に体験してもらうフェーズが必要。なにかを商品化するのでもいいし、ツーリズムやワークショップでもいいと思います。でも一番やってみたいのは僕も宿。宿泊業ってすべてのライフスタイルを非日常で提供するところなので、「これが自分たちの提案したいニューノーマルな暮らしなんだ」っていうのを体験してもらえる空間を、是非ともつくりたいですね。

田村僕はやっているうちに、「ニューノーマルって、いわば『アーツ&クラフツ運動(注:ウィリアム・モリスが提唱した美術工芸運動。職人の手仕事による生産と実用の美の追求を唱えた)』じゃないの?」って思ったところがあって。

モリスが思い描いていたアーツ&クラフツ運動ってもともとは分断された社会を修復するデモクラシーの思想が背景にあった。皆が参加することによって社会をもっと能動的に、市民全員が社会の担い手となってより良いものにしていく運動だったんです。結果的にお金持ちのための工芸品をつくる、工芸品の復権活動で終わっちゃった感じがあるんですが。そうした歴史を踏まえ、「僕らが今アーツ&クラフツ運動をするとしたらどんなものなんだろう?」っていう実験をしているのがニューノーマルなんじゃないかと。

そういう意味でも、今回の事例を踏まえた事業体みたいなものはつくっていきたいと思っています。たとえばツーリズムだったり、学びの機会創出だったりというかたちで生まれた成果を広げていく活動につなげていければたのしいですね。