湯上り総会

2/3

それらのキーワードは現在、6つの研究会にテーマとして割り当てられています。なぜ「研究会」という形に落とし込んだのでしょう?

田村当初は生活者を集めて、その人たちが暮らしの中で持っている美意識みたいなものを調査して、ボトムアップに編集していこうという話をしてたんです。でもこれ1年じゃ終tわんないよね? という話になって。だったら生活者(つかい手)とつくり手の間の存在としてオピニオンリーダー的な人を入れてやっていく体制にできないかと、白水さんから話が出てきた。

白水はじめはそういうリーダーを「暮らしのプロ」と位置づけてたんです。ただ、オピニオンリーダーが引っ張りすぎるとその人の視点に囚われてしまう。それで最終的に「一緒に考える人」という位置づけにしました。

田村いわゆるライフスタイル系雑誌のような「おしゃれな暮らしをしている人の生活様式を取り入れる」トップダウンの方式ではなく、地域の暮らしに根ざした、土地の力を活かした生活のスタイルをつくり手やつかい手と一緒に探り当てる方法を取りたかったんです。

白水キーワードごとに6つの研究会をつくり、「つくり手」や「つかい手」、「一緒に考える人」たちがともに考えるというやり方に関してはいろいろまわり道もあったんですけど、結果的にはこれで良かったなと思っています。
例えば「おもいやる」研究会だと、羊羹の伝統とはまったく異なる、「これはつくり手的には有りなのか?」っていう大胆な用い方を提案しているじゃないですか。そのあたり、つくり手さんからの反発とかはないかな……と、不安だったんです。でもつくり手の人たちもコンセプトややりたいことをちゃんと説明すれば分かってくれるし、彼ら自身、「こういう挑戦は必要だ」と思いつつも、長く続いてるだけにやりにくかったことを、今回のようなプロジェクトでトライできるという点に関しては、意味を見出してくれていると感じます。
あとは、伝統工芸の業界とは異なる分野で活躍してこられた「一緒に考える人」と地場のつくり手とのマッチングがうまくできたと思う。もちろん意見の相違は必ず出てくるんだけど、長期的には必ず意味があるものになっているのかな、という実感は日々高まっています。

先崎 ゴールが最初から見えてる研究会があれば、五里霧中の研究会や見えていてもプロセスや考え方がどんどん変わる研究会もあったりと、本当に混沌としていました。でも今振り返るとその期間が結局一番大事だった。
デザイナーはすぐにアウトプットや落とし所を考えちゃうんですけど、あえてそれをしないでモヤモヤを繰り返し続けたことで、最終的にそれぞれの研究会の思考が結晶化してきて、これらをトータルで見ると佐賀から始まる「明日の暮らし」みたいなものが見えてきそうな予感がしています。

白水それこそ雑誌の企画みたいに全部同じ方向にならなかったというのが重要ですよね。それぞれの研究会で話し込んだ分、それぞれの色が出るのかな、という気はしています。

田村「上質な暮らし」ではなく、「ふつうの暮らし」の方向へ進むことができた点に関しては良かったと思います。ただ、最初に構想していたムーブメントにはまだなっていないし、つくり手とつかい手の共進化をどう実現していくのかというのもこれからですね。

白水つくり手も曖昧で、不確かなことを議論してるし、ムーブメントなんてそもそも単年度で完結するものではないですしね。今回2月から開催される「ニューノーマル展」でプロトタイプやイメージが出ていくんですけど、それによって参加しやすくなる人っていうのはかなり出てくるんじゃないかな。
以前、他県の同じような事業を3年間やっていたときも、商品などの事例ができはじめてから、一般のつくり手とか企業の人とかから、「自分も参加させてくれ」という声が増えたんです。具体的なものやイメージを見せてからが本当のスタートなんだろうなというのは結構あって。今もちょっとずつ情報発信しはじめたことで、「あれ、おもしろそうだね」と言われることが増えてきた。今回の事業も2月の展覧会で終わりではなく、ここからがはじまりなんです。うちとしては継続的に続けていくのがミッションだと思っていますね。

田村結局のところ、つくり手が頑張ってもつかい手側が受け止めなければ普及しない。それっていわゆる文化資本の話で、生活文化が向上することはすなわち、地域の文化資本が高まり、蓄積されていくことでもある。そんな新しい文化資本の積み増しをニューノーマルを通じて実現できれば、佐賀はもっと魅力的な場所になっていくと思っています。
そういう意味でニューノーマルは「伝統工芸品のプロモーション」という建て付けなんですけど、最終的には佐賀県の文化をどうやって高めていくかを射程にしているんです。