湯上り総会

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湯上り総会

ニューノーマル的「明日の暮らし」と
これからのものづくり

「ニューノーマル展」開催を目前に控え、発起人であるリ・パブリックの田村大、うなぎの寝床の白水高広、TETUSIN DESIGNの先崎哲進の3人が集結。
ニューノーマルをはじめた動機と見えてきた課題、今後の可能性について話しました。
写真:12月2日 ニューノーマルリリースイベント「湯上がり総会」 撮影/藤本 幸一郎 座談会:1月16日 インタビュアー 桜井祐(TISSUE.inc 編集者)

そもそもニューノーマルをはじめたきっかけとは?

田村 佐賀県の「佐賀県伝統工芸品等プロモーション事業」というプロポーザル案件があって、それにデザイナーの先崎さんとうなぎの寝床とリ・パブリックで共同提案することにしたのが始まりですね。企画を練っている段階で、僕は「そもそも伝統工芸品を素でプロモーションしてもみんな使わないんじゃない?」という話をし、むしろ「伝統工芸品がある生活をどういう風にデザインするか」という方向で考えようと提案したのが、今に至るニューノーマルの構想の始まりだったと思います。

白水 うなぎの寝床では6、7年の間、伝統工芸やものづくりにおけるつくり手の思いや技術をつかい手に伝えることを中心に据えてものの販売や開発、イベントといった活動を行ってきました。ただ、どれだけ技術がすごいかを伝えても、つかう人にとってはあんまり関係ないんですよ。ものづくりファンには響くけど、そうじゃない人たちにはなかなか届かないという限界点を踏まえた上でどう発信していくべきか、という課題があったんです。そこへこのプロポーザルの案内があり、応募することにしました。

先崎 僕はデザイナーなので、伝統工芸に関わるとしても基本的にはクライアントワークになります。なかなか伝統工芸でものをつくっている人以上の“もの”をつくることができないので、「いかに技がすごいか」とか「こういう空間にあってもいいよね」とかを現代的センスを取り入れて見せることばかりになってしまう。新しいスタイルやパッケージデザインをつくって、東京の展示会で発表して全国に出していく、みたいな。それはそれで、多少の効果があるかもしれないけど、人の生活にその“もの”を取り入れるところまでは到達できていないということに対して、ジレンマがあったんです。そんなことを最初の打ち合わせで話していたとき、田村さんがつくり手とつかい手による共進化のスパイラル図(左図参照)を描いたんですよ。それを見て、結局佐賀でつくられているものがあまり佐賀で使われていないというのが最大の課題なんだなあと気付き、それをどうプロセス化していくかを考え出したのが、ニューノーマルのきっかけですね。

「ニューノーマル」というコンセプトはどの時点で出てきたんでしょう?

田村 最初は「スローフード」という、イタリア発祥の市民運動をモチーフにしたんです。ファストフードへのアンチテーゼとして、地域の伝統や産品を活かした食生活を再構築していく運動ですね。スローフードで注目すべきは、それが運動として市民の間に広がっていったということ。同じように今回の取組みもキャンペーンじゃなくてムーブメントにしていくのが大事だよねと。じゃあ、このムーブメントに共感するような暮らしのあり方をどういう風にスローガン化していけばいいのかをずっと考えていた中で「明日のふつうの暮らし」っていうキャッチコピーができたんです。その「明日のふつうの暮らし」(注:その後、「明日の暮らし、みつけよう。」に変更)を少し抽象化してできたのが「ニューノーマル」だったんじゃないかな。

白水 そうですね、そんな感じだったような気が(笑)。コンセプトを最初にゆるく決めて、今はそれを実装して埋めていっているフェーズです。

田村 最初にそういう枠組みをつくって、暮らしの切り口みたいなものをいくつか考えようというので、出てきたのが「はたらく」とか「あそぶ」とかいったキーワードですね。