一緒に考えよう、ニューノーマル

もしも嬉野温泉に香りがあったら?

湯上りゴロゴロ研究会

極上のくつろぎを与えてくれる代表格といえば温泉。暖かく身体を包み込むお湯においしい食事、ふわふわの布団――温泉宿でのひとときはわたしたちを忙しない日常から切り離してくれます。でも人はなぜ、温泉宿のような空間でくつろぎを感じるのでしょう? そんな分かっているようで実はよく知らない「くつろぎ」のカタチと新たな可能性について探ってみました。
舞台としたのは嬉野温泉。成分にナトリウムを多く含むことからお湯にとろりとした質感があり、日本三大美肌の湯のひとつとして人気を誇ります。そんな心地よい触感をもたらしてくれる嬉野温泉ですが、実は無臭。そこで「もしも嬉野温泉に香りがあったら?」をコンセプトに、嬉野温泉特有のとろみをテーマにした香りを開発しました。この香りに身をゆだねれば、湯上り気分になれること間違いなしです。

温泉宿でのくつろぎを五感から捉えてみよう。

研究会プロセス

Concept
どうして「お香」?

嬉野の老舗、旅館 大村屋を舞台に新たな「くつろぎ」の可能性を模索しました。「湯上りを音楽と本で楽しむ宿」を謳う大村屋は、音楽で聴覚、本で視覚、温泉で触覚、料理で味覚を楽しませてくれる宿です。ただ、唯一「嗅覚」については未着手であったことに注目し、嬉野温泉の特徴である「とろみ」をテーマにした香りを生み出すことに。とろみから構想されるたおやかな香りを生み出すべく、香りのプロフェッショナルである日本香堂をはじめとした研究会メンバーで議論を交わし、開発を進めました。
同時に、お香を焚く/香りをきく時間そのものを味わう環境づくりについても議論。佐賀・嬉野の歴史性やその土地でつくられているものを練りこみながら、せわしない日常生活の中でくつろぎの時間を持つためにはどんな仕掛けが必要か? 温泉旅館のロビーやラウンジなどでの使用を想定しながら、検討を重ねました。

Material
名尾手漉き和紙
なんでも漉き込む伝統技術

元禄年間、筑後の構口村に赴き、日源のもとで紙漉き方法を習得した納富由助がその技術を名尾村に広めたことで、製紙業がはじまりました。その後、名尾は和紙の里として知られるようになりましたが、高度成長期のころから紙漉きを行う家が減少。現在その伝統を継承するのは一軒のみとなっています。
名尾和紙の特徴は、紙の原料にあります。手すき和紙の原料として、一般的には楮や雁皮、三椏の樹皮が使われますが、名尾和紙では梶の木の皮を使用。梶は繊維が長いため繊維どうしがよく絡み、さまざまな異原料を漉き込むことが可能となります。

Material
嬉野温泉
古代から続く癒やしの湯

昔、神功皇后が戦いの帰りにこの地に立ち寄ったところ、川中に温泉が湧いているのを発見。その湯が兵士の傷を癒したため、皇后が「あな、うれしいの」と喜んだことからその名がついたと伝えられる嬉野。古くは奈良時代の『肥前国風土記』にも記述があり、とろみがある湯質は日本三大美肌の湯のひとつに数えられています。
長崎街道沿いにあるため、江戸時代には宿場町として栄え、行き交う人々が旅の疲れを癒すのに立ち寄っていました。それに伴って夜の文化も開花。現在も麗しいスナックが点在し、夜は一味違う賑わいを見せています。

Material
嬉野茶
青々とした薫風をもたらす

永享12年(1440年)明の陶工が陶器を焼くかたわら、自家用に栽培したのがそのはじまりといわれています。永正元年(1505年)には、明の紅令民という人物が南蛮釜を持ち込み、釜炒り茶の製法を伝授したことで産地が拡大。江戸時代には長崎街道を経て欧米に輸出され、好評を博しました。
なだらかな山間で霧深く、昼夜の温度差がある嬉野は茶の栽培に適しており、まろやかで芳醇な味わいが特徴です。

Material
肥前吉田焼
水玉模様の急須といえば

天正5年(1577年)、吉田村を流れる羽口川の上流で陶鉱石が発見されたことに端を発する吉田焼。その後、朝鮮人陶工が同地で製陶をはじめ、その後400年以上にわたり、日用食器を中心に生産を行ってきました。
戦後になると、茶器を製造する窯元が増加。最近では、レトロな雰囲気を持った水玉模様の急須や湯のみが有名です。

パッケージ用に嬉野茶の葉を漉き込んだ紙を名尾和紙にて制作。お香立てには割れてしまった吉田焼の陶片を活用しました。
温泉マークの三本線を延ばしたロゴを配置し、立ちのぼる温泉の香りを表現しています。

Material
日本香堂−香りをつくる

「お香」とひとくちに言ってもその形はさまざま。いわゆる線香から渦巻きタイプ、匂い袋やスプレータイプなど、用途に合わせていろんな種類があります。そこでまずは「どんな場所でどういう風に使うのか?」を研究会で議論。枕元に入れる匂い紙や、掃除後の客室用スプレーなど、さまざまな案が出てくる中、「香りを最初に感じる場所」として旅館のパブリックスペースで使用するお香に焦点を当てることに決まりました。
次に話し合ったのが香りの方向性です。最初は嬉野茶、中でも通常の蒸し製法よりも香気がよく出る釜炒り茶をお香に練り込もうという案が有力だったものの、茶葉が燃えると香りに雑味が生まれてしまうことが分かり断念。最終的には、嬉野の御神木である清らかなクスノキの香りをベースに、生薬系香料のほどよい甘みをたすことで、嬉野温泉のとろみのイメージを体現したオリジナルお香ができあがりました。

一緒に考える人

桜井 祐TISSUE Inc. 編集者

協力企業

旅館 大村屋

佐賀県小城市小城町861
TEL 0952-72-2131
OPEN 8:00~17:00 無休

名尾手すき和紙

佐賀県佐賀市大和町大字名尾4756
TEL 0952-63-0334
OPEN 9:00-17:00 無休